作ってみた:メディウム編2
前回作成したブラックオイルを使って、メギルプを作ってみました。
メギルプとは
今回は、ブラックオイルとマスチック樹脂、テレピンを用いてメギルプというゲル状のメディウムを作ってみることにします。
マスチック樹脂は、乾性油と混ぜるとメディウムをゲル状にする性質がるのです。乾性油にブラックオイルを用いることで、速乾性のメディウムとなります。
マスチック樹脂を含んだメディウムは絵具に加えると絶妙な筆運びをもたらします。とても絵の具の伸びが良いのです。
昔の工房では、一日に何枚もの大型作品を仕上げていたと云いますから、このジェル状のメディウムを使っていたであろうことは想像に固くないのです。
油絵具を、乾性油と揮発油だけで溶いて描いていた時に比べれると、その差は歴然なのです。
油絵具で微妙なグラデーションを描くのはなかなか難しいのですが、このジェルメディウムを使うとと、いとも簡単に綺麗なグラデーションが描けてしまうのです。
下記の作品『ほおづき』では、背景の夜空と手前の床のグラデーションを一層だけで仕上げているのです。
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今回は、前回自作したブラックオイルを用いてメギルプを作ってみることにします。
メギルプの問題点
メギルプは、処方によっては乾性油と同量のマスチックを使用するなど樹脂の量が非常に多くなります。
そのため、メギルプによる絵画層は時とともに脆くなり、暗変、クラックその他様々な問題の原因となってしまうのです。
マスチック、ダンマルなどの天然の軟質樹脂は、適切な量を加える分には良い面が多いのですが、それ自体は経年により脆くなるものであり、溶剤に反応しやすく、熱にも弱いものなのです。
題点の回避
『巨匠に学ぶ絵画技法』(J・シェパード著)のレシピは次の通りです。
乾性油:マスチック樹脂:テレピン =1: 0.7:1
もしくは
乾性油:マスチック樹脂:テレピン =3: 1:3
このレシピですと、それぞれ、樹脂の割合は50%と25%と非常に多いのが特徴です。ここでは『西欧絵画の画材と技法』の松川氏の処方に従って、
乾性油:マスチック樹脂:テレピン =6: 1:3
とすることにします。
この処方では、樹脂の割合は約15%となります。
樹脂の割合を軽減することで、暗変、クラックなどの問題を回避するのです。
メギルプのつくり方1
マスチックガムを使う方法
材料
乾性油(ブラックオイル:30g)・マスチックガム(5g)・テレピン(15g)計50g
道具
計量器・IHヒーター・小鍋・金属製のマグカップ・温度計・割り箸・空き瓶・じょうご・コーヒーフィルター・保存用の小瓶・ラベル・糊・ホッチキス
作業手順
1:テレピンの計量
計量したテレピン(15g)を保存用の瓶に入れておきます。
2:他の材料の用意
計量した乾性油(ブラックオイル:30g)とマスチックガム(5g)を金属製のマグカップに入るます。
3:材料の加熱
IHヒーターで金属製のマグカップを100°前後になるまで熱します。
この時、IHヒーターの上面の温度上昇を抑えるために、水を張った小鍋をIHヒーターに乗せておくと良いです。
時々、割り箸でマスチックガムをかき混ぜます。余計なことをせずに、マスチックガムが溶けるまで気長に待っていても良いのですよ。
マスチックガムが完全に溶けるまで熱し続けます。10分程度で溶けるかと思います。
4:冷却
マスチックガムが完全に溶けたら、IHヒーターから金属製のマグカップを下ろし、自然冷却させます。安全のため、60°程度まで冷却すると良いです。
5:濾過
濾過して、不純物を取り除きます。ほとんど、不純物などありませんが一応念のために行います。
コーヒー用のフィルターをホッチキスで止めて使うと勝手が良いです。
6:材料を混ぜる
テレピンの入った保存用の瓶に溶液を注ぎ込みます。
7:一晩放置
一晩放置してやれば、樹脂率の低いメギルプでも、大抵はジェル化します。
8:ラベル
日付や処方を書き入れたラベルを貼ります。これは大事です。
9:冷暗所に保管
メギルプは、日持ちがしないので、製造後2ヶ月ほどで使い切るのが良いとされています。
メギルプのつくり方2
マスチックバニスを使う方法
市販のマスチックバニスを使うと簡単にメギルプを作る事ができます。
最近、クサカベから新たな処方のマスチックバニスが発売されています。
旧版の処方は33%溶液(テレピン:マスチックガムが2:1の割合)でした。
新しい処方では25%溶液(テレピン:マスチックガムが3:1の割合)となっています。
いまでは廃盤になっているホルベインのマスチックバニスの処方は公開されていませんでしたが、各種の実験の結果から25%溶液であると判断して使っていました。写真のマスチックバニスは、このホルベインの旧版になります。
ここでは、混合比25%のマスチックバニスを使って処方しています。ブラックオイルとの混合比は、次のようになります。
乾性油(ブラックオイル):マスチックバニス=6:4
この配合比で材料を混ぜてやれば、
乾性油:マスチックガム:テレピン=6:1:3
の割合のメギルプを作ることが出来ます。
また、マスチックバニスは海外のメーカーからも発売されています。マイメリのマスチックバニスは配合比が30%となっています。
マスチックバニスは、自作することもできますから、ぜひ挑戦してみてください。こちらは、ニスの作り方の記事でご紹介いたします。
マスチックバニスを保護用のニスとして用いるときは、33%溶液を使いますから、日頃から自作のマスチックバニスを用意しておくと便利です。
メギルプ使用上の注意
メギルプは、マスチック樹脂が配合されている事もあり、非常に滑らかな描き味のするメディウムです。
ブラックオイルの速乾性もあって、夏場であれば、ほぼ一日で画面は乾いてしまいます。
しかし、厚塗りは禁物です。厚塗りをした絵の具層の上に乗せた新たな絵の具層に細かな亀裂やシワが生じる事があるからです。
また、絵の具層の下層から仕上げ層に向かうに従い、乾性油の割合を増やしてゆく、ファット オーバー リーンの原則に基づく描き方を踏襲する場合、メギルプの乾性油の配合率は非常に高いですから、その上に重ねる絵の具層のメディウムにも注意が必要となります。
早描きとアラプリマ
かつての絵描きの工房ではクライアントの注文に従い、非常に大きな作品を量産していました。
師匠の元に多くの弟子たちが集い、量産を可能としていたのです。レンブラントの工房では、一日に2m四方の絵を仕上げていたと伝えられています。
また、ドラクロアは日に200号(F200=2,590×1,940mm)の作品を3枚仕上げたとも伝えられているのです。
こうした絵画の早描きと量産を可能にしていたのがメギルプの滑らかな描き味だったのではないかと想像しているのです。
当然、人の顔とか手以外の箇所は、アラプリマ(一発描き)で描いていたものと思われるのです。
参考例
ブラックオイルとマスチック樹脂の配合だけでは、乾燥後の脆弱性が気になります。
ここに示した配合はあくまでもテキストに載っていた基本の調合例です。実作に使用する際には、いろいろと工夫をこらしてご自分の作風にあった調合をすると良いかと思います。
これらのメディウムを用いて、実際に作品を描き、経年変化の様子を観察しなければ、メディウムの有効性は実証できないのです。あくまでも参考例として捉えてください。
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