フェルメール『小路』
フェルメールの『小路』の模写です。
支持体は自作しました。シナベニヤを角材で補強し、生キャンバスを貼り白亜地の半吸収性の下地を作っています。
サイズ:52.0×42.0cmです。実際のサイズより縦横1cm以上変えるのは、レプリカ作成時の規則です。贋作防止のためのルールなのです。
メディウムは、自作のメギルプとオリジナルのメディウムを使っています。硬いメディウムと柔らかいメディウムを作って使い分けてみました。
硬い印象のあるレンガの壁と、柔らかな印象のある空や雲をメディウムを使い分けることによって表現してみました。
フェルメールの風景画
フェルメールの2点しか現存しない風景画のうちの1つです。もう1点は『デルフトの眺望』です。
『小路』はデルフト市内のどこで描かれたかについては諸説あり、特定の場所を描いたものではないとする説も有力だそうです。
デルフト大爆発
1654年5月18日オランダのデルフトで火薬庫に蓄えられていた40tの火薬が爆発し、市街の大部分が破壊されてしまいました。
この事故は約1,200人が死亡し、1,000人以上の負傷者が出た大惨事だったのです。
デルフトに対するオマージュ
フェルメールは、当時流行であった都市景観図に果敢に挑戦しながらも二枚しか残していないのです。
実際は3枚あったとする説もあるのですが、現存していないそうです。
デルフトはオランダの数ある都市の中でも『真珠』と讃えられていた大変美しい街だったそうです。
フェルメールの残した2枚の都市景観図は火災で失われてしまった故郷の街デルフトの風景を永らく記憶に留めおくために、オマージュとして描かれたのではないかとする研究者もいます。
線透視図法で再現した理想都市景観図
2枚の都市景観図は、火災で消失してしまったデルフトの記憶を理想的な都市像として再現しています。
これは、線透視図法を用いて街の風景を描いた空想上の都市景観図だったのでしょう。
図面や空想(想像)を元に都市の風景を描く絵を『奇想画』(カプリッチョ)と呼びます。
18世紀ベネチアの都市景観図を描いたカナレットがこの手の作品を多く残しています。
『奇想画』の技術は現代の建築画の専門職であるパースやさんやアニメの背景画を描く背景画屋さんたちに受け継がれています。
自作メディウム
この絵に使った基底材や支持体やメディウムは自作しています。
支持体は、絵のサイズが不定形ですから市販品を使うことができませんでした。角材を大工センターで買ってきて木枠から作っています。
着彩の初期段階ではメギルプと呼ばれるジェルメディウムを使っています。仕上げ段階では3種類の樹脂を含むメディウムを使用しています。
古典絵画の手法を学ぶためには支持体とメディウムの自作は避けて通ることはできないのです。
メギルプを造る為には最初にブラックオイルを作る必要があります。
約1時間半毒性のある鉛白を混ぜ込んだ乾性油を180度の高温で熱し続けると出来るのですが、とても臭いのです。
これは、周囲に気を使う厄介な作業となるのです。気軽に人に頼める作業ではないです。DIYあるのみなのです。
メディウムの配合
メディウムに使う樹脂は次の3種類です。
マスチックワニス(33%溶液:自作品)
コーパルワニス(33%溶液:自作品)
この3種類の樹脂の微妙な配合比によって、硬いメディウムから柔らかいメディウムまで作ることが出来るのです。
また、コーパルワニスを琥珀ワニスに変えることで、風景画に合った理想のメディウムを作ることが出来るのです。
このあたりの、メディウムの配合比のお話はまたいづれ致します。
参考書
古典絵画を学ぶにあたり先ずは松川宜弘さんのHP『西洋絵画の画材と技法』を訪れ、熟読されることを推奨します。
教科書としては『巨匠に学ぶ絵画技法』J・シェパード (著) をお勧めします。この本にはメギルプの製法が書いてあるのです。
この本はすでに絶版となっていますが、2019年夏の時点では、まだアマゾンに古本として出品されていました。
英語版で良ければ出版されているようです。私は地元で通っていた静南美術研究所の書架でこの本を見つけて学びました。
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